アルパイン・ファザーリングを実践するため、いっぱしのアルパイン・クライマーを目指すパッパです。
今回はアイゼンとピッケルを伴う初めての冬期登山として赤岳に登った際の記録を書きたいと思います。
山行データ
No.1 赤岳
時期:1月上旬
エリア:八ヶ岳
天気:晴れ、稜線上風速約15m(推定)
行動時間:4時間37分
歩行距離:約5.1km
累積標高差:△785m・▽785m
コース定数:18
アクセス:八ヶ岳山荘駐車場(1000円/1日)
お得情報:特になし
トイレ:赤岳鉱泉、行者小屋(冬季閉鎖、トイレ使用可能)
陸自の冬山装備:官品スキー
アイゼン・ピッケルは初めてと書きましたが、私は陸自の積雪寒冷地部隊に配属されていたため、雪山に入るのは初めてではありません。では、アイゼンとピッケルを用いずにどうやって雪山に入っていたかというと、陸自オリジナルのいわゆる「官品スキー」というものを装備して行動していました。これはゾンメルスキーに似た形状で、「バッケン」と呼ばれる革のベルトで靴を固定すること、テレマークスキーのように踵が浮くこと、そしてスキー板の裏に「ウロコ」と呼ばれる加工がされていることが特徴です。このスキーを用いることで雪面を走ったり、登ったりすることが可能となります。
陸自ではアイゼンやピッケルは使わず、基本的にこの官品スキーで雪上機動をしていました。あまり急な登攀を想定しておらず、機動力を重視しているゆえの選択かもしれません。確かに、この官品スキーを履いた熟練自衛官の雪上機動は驚異的で、冬季オリンピックのバイアスロン競技にも選手を輩出しています(というより、射撃を実施する関係上、日本では自衛官以外の方が競技としてバイアスロンをすることは難しいようです)。
冬季赤岳初登頂
冬山における転倒やスリップは滑落につながるため、確実なアイゼンワークとピッケルの操作法を学ぶ必要があります。このため、講習を1日みっちり受けた上で、赤岳登頂に挑むことにしました。
0705、赤岳鉱泉を出発します。気温はマイナス12度。歩くとすぐに暑くなるので、ハードシェルはまだ着ません。行者小屋まではアイゼンなしで進みます。
0750(45分)、行者小屋に到着。ここでアイゼンを装着し、ハーネスをつけ、進路を東にとり地蔵尾根を進みます。地蔵尾根は、行者小屋と地蔵ノ頭をつなぐ経路で、高度約360m、距離約700m、平均勾配が約28度の登り坂です。この程度の勾配ならダックウォークでも登れますが、体力の温存と安定性を重視してサイドステップを多用して登ります。森林限界を超える前に、ハードシェルを着ます。
0904(1時間59分)、地蔵ノ頭に到着しました。風速は体感で秒速約15mほどでしょうか、たまらずフードをかぶります。風に耐えつつ、稜線上を赤岳山頂に向けて進みます。
0953(2時間47分)、赤岳山頂に到着しました。風が強いので、コーヒーを一杯飲んでからすぐに下山します。帰りは文三郎尾根経由です。行者小屋まで高度約540m、距離約1300m、平均勾配約22度を下って行きます。地蔵尾根より平均勾配が緩やかであるとはいえ、傾斜のきついところや道が切り立っている個所もあるので、油断はできません。
1153(4時間47分)、赤岳鉱泉に無事に戻ってきました。ラーメンを頂いてから鉱泉を後にし、八ヶ岳山荘で車をピックアップして帰路につきました。
装備の不具合
今回の反省点の多くは、装備にありました。
まず靴のサイズがフィットしておらず、靴擦れができました。恐らく原因は、試着時にかなり厚手の靴下を履いていたこと、そしてさらに、少し大きめを許容してしまったことだと思います。これはある登山ガイドも言っていたことですが、靴は使用に伴い膨張する傾向にあるので、試着時は薄手の靴下で問題ないそうです。
次にグローブです。これも大きすぎました。冬山では基本的に全てグローブを付けた状態でロープやギアなどを操作するので、大きすぎるグローブは操作性を損ないます。また、アルパイン・クライミングにおいては登攀を阻害する可能性もあります。グローブの保温性と操作性はトレードオフですが、今回私はもっとフィットするサイズのグローブの方が望ましいと感じました。
最後にサングラスです。私はたまたま持っていたサングラスを付けていったのですが、バラクラバを付けているわけでもないのに曇ることがあって困りました。サングラスやゴーグルの曇りは、強風や極低温の環境下では凍結につながる可能性があるので、なるべく避けなければなりません。サングラスの曇りを避けるためには、鼻あて・ノーズパッド付きの方が望ましく、かつ鼻の形状に応じて調整するのがよいそうです。
「たまたま」無事だった山行?
文三郎尾根を下っている際、沢筋にホバリングするヘリコプターを見つけました。後で聞いたところによると、2日前に遭難した登山者の遺体が収容されたようです。アルパインゾーンにおける冬山登山は、一つのミスが死に直結する世界であることを改めて思い知らされます。
私も今回は無事に下山することができましたが、それは「たまたま」だったのかもしれません。落石、天候の急変、雪崩、足場の剥離など、重大事故につながる要因は数多くあり、その多くは自分でコントロールできないためです。
今こんなことを書いている私も、この赤岳初登頂時には冬期登山における危険の本質を自分事として捉えられていませんでした。しかし、ある事故が起きたことにより、このような潜在的な危険性と向き合うことを余儀なくされました。この話は、また別の機会に紹介したいと思います。
今回の冬季赤岳登頂で感じたことは、冬山の楽しさです。特に今回のように天候に恵まれた日では、八ヶ岳ブルーと言われる深い群青色の空と、雪山の白さとのコントラストが強烈でした。また、舞い上がる雪によって太陽の周辺に虹が見えるという現象も見ることができました。そして、自分の足でそのような景色を見ることができたというのは何よりの喜びです。
いつか、この喜びをジュニアと共有したいと思います。そのため、一層精進したいと思います。