”アルパイン・ファザーリング”

ファザーリング

前回の記事では、私がおぼろげながらに導き出した子育ての方向性について書かせていただきました。

それは、「自律」及び「感性」を育んでいくことで、ジュニアが幸せな人生を歩めるようになるための手助けをする。、というものでした。

曖昧模糊とした頼りない方針ですが、私にとってはこの方針は腑に落ちるものがあります。ジュニアが少し大きくなった今でも、迷った時はこの方針に立ち戻って考えることがあります。

そして、山というフィールドを活用して「自律」と「感性」を育んでいこう…ここまでが前回の記事で紹介したことです。

なぜ、山か?

陸自のレンジャー教官としての経験から、ある程度山について知っている、教えてあげられることがある、というのが大きな理由です。

しかし、山での活動を通じて多くのものを学んだ、という私自身の個人的な体験がより大きな理由でした。

それは、ランド・ナビゲーションや生存自活といった技術・知識だけでなく、むしろ感覚的なものが多かったように思います。

月のない夜の森の圧倒的な暗さ、闇に包まれていることの恐怖心

山の夜の寒さ、心細さ。夜は必ず明けるということ。

乾いた下着、雨を遮る天井、風を防ぐ壁、清潔な水のありがたさ

空腹・疲労時に自分がどんな行動をとるか。自らの弱さと仲間の存在のありがたさ

自分にはできないと思っていたことをやり遂げた時の達成感

ささいなことに喜びを感じること。雲間から除く月の明るさ、蛍の光、落ち葉の色の鮮やかさ

自然の美しさ、厳しさ。困難を乗り越えた先に見える景色のすばらしさ

今になって振り返ると、訓練の副産物とも言えるこれらの経験は、私という人格を構成する上で大きな、そして恐らくはポジティブな影響を与えたと思います。このような考えから、私は山で得られる体験はジュニアの健全な成長を促し、自律と感性を培う上でもプラスになるだろうという期待を抱くようになりました。以上が、私が子育てに積極的に山での活動を取り入れていこうと考えるに至った次第です。

楽しさの追求:アルパイン・クライミング

山での活動を子育てに組み入れようと言っても、私が陸自でやっていたことはあくまで「訓練」であり、それをそのまま子育てに流用することはできません。子どもは遊びを通じて成長し、学ぶものである以上、山での活動も楽しいものでなければならないのです。

「訓練」ではなく、あくまで楽しさを追求した上で、私が陸自の訓練で得られた素晴らしい体験をジュニアと共有できるような山での活動スタイル。それを満たすのはただ一つ、「アルパイン・クライミング」という登山スタイルです。

厳密な定義はさておき、アルパイン・クライミングは既存の登山道に頼らず、自ら道を選び、厳しい気象条件を克服し、立ちはだかる断崖・氷壁などの障害を越えた先を目指すこと、そしてその過程を楽しむことに、その本質があると言えます。

既成概念にとらわれず、困難を克服し、自ら道を切り開くこと。人の評価に頼らず、自らの規範に基づき行動し、その過程や達成を楽しむこと。

アルパイン・クライミングの本質は、人生を生きていくことと通ずるものがあると思います。

陸自のレンジャー訓練とアルパイン・クライミングは、外形上は非常に似ていると言えます。体力的な困難、欠乏の中で強いられる判断、困難な地形の克服、求められる高い精神要素、などの要素は通底しているでしょう。しかし、両者は全く異なる目的のもとに行われるものです。レンジャー訓練の目的は有事において遊撃作戦を遂行する隊員を育てることにある一方で、アルパイン・クライミングの目的はあくまで楽しみの追求にあるからです。

訓練的な要素を子育てに応用するのはいささか不穏当で、子育てにおいてより重要な要素とも矛盾することが出てくるかもしれません。しかし、楽しみを追求するアルパイン・クライミングなら、子育てとのより高い親和性が期待されます。

アルパイン・ファザーリング

私が訓練を通じて感じたこと・学んだことを、アルパイン・クライミングを通じてジュニアに伝えたい。それは知識・技術的な要素にとどまらず、アルパイン・クライミングの本質である、困難を克服することや自分で選んだ道を歩くことの楽しさを伝えたい。そして、その過程で自律と感性を育み、ジュニアが幸せな人生を歩む手助けをしたい。これが、子育てにおける私の目標となりそうです。

アルパイン・クライミングの要素を取り入れた子育ての実践を、このブログでは「アルパイン・ファザーリング」と呼びたいと思います。アルパイン・ファザーリングには、子育てにおいてアルパイン・クライミングを実践するだけでなく、「自分で目的地とそこまでの道を選び、困難を克服してたどり着くことの喜び」というアルパイン・クライミングの本質を積極的に伝えていくということも含めます。

といっても、いきなりアルパイン・クライミングを実践することはできません。ジュニアはまだ小さく、私もレンジャー教官としての経験があるとはいえ、アルパイン・クライミングの実践においては素人もいいところです。

つまり、私自身がまず一廉のアルパイン・クライマーにならなければならないのです。そのためには私自身が鍛えなおし、学び、経験していくことが必要です。必要な器材も買いそろえなくてはいけません。アルパイン・ファザーリングは親である私自身の成長も重要なテーマであり、本ブログでも執筆していきたいと思っています。

アルパイン・クライミングを「急峻な山岳環境における移動をともなう身体活動」と広く定義づけるなら、その練習としての低山のハイキング、キャンプなどもその裾野に含まれるでしょう。まだ幼いジュニアは、まずこういった遊びを通じて少しずつアルパイン・クライミングに触れていくことになります。

私自身がアルパイン・クライマーとして成長していく過程と、アルパイン・クライミングの要素を取り入れた子育ての記録。当ブログは、アルパイン・ファザーリングに関わるこの2つを軸として書き進めていきたいと思います。

一つの形となるまでは相当の時間がかかるかと思いますが、長い目で見守っていただければ幸いです。